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箱とそのラベルについて

言葉がいるなら私の心ごとくれてやる *1

亡念のザムドは名言に溢れている。このセリフを投げたのは紅皮伊舟。「紅で反旗を書く女」。気が強くて行動力とカリスマ性を持ち合わせているのに不器用で繊細な女船長。武器を持ってヒトガタを黙らせる姿が美しい。彼女は言葉を深く理解しているが、それゆえの諦めのようなものがこのセリフから伝わってくる。

現代におけるこの言葉の「あや」の具体例を考えてみる。 Aさんが会社における人間関係に悩んでいてAさんの友人であるBさんが相談に乗っている。 Aさんは上司からの指示に不満があり、これが自分の問題なのかそれとも上司に問題があるのか判断できずにいる。そこでBさんは「家族に相談してみてはどうか」と発言したとしよう。Bさんにとってこれは「信頼できる人の意見を聞くこと」を勧める意図の発言だ。ここでAさんは何らかの理由で自分の親兄弟に対して良い印象を持っていない場合、Bさんの意図は正確に伝わらないだろう。

あくまで会話でやり取りされるのは言葉であり、その言葉とは箱についたラベルのようなもの。本当は箱ごと渡したいのに実際はラベルだけを相手に渡している。相手は受け取ったラベルから自分の持つ箱の中から探して開封する。同じ言葉を交わしていれば箱の中身も同じだと思いがちだが、大抵の場合そうはならない。普段意識しないがこのようなことが会話の中で起こっている。

厄介なことに箱に何が詰まってるかは人によって違う。そして文脈によっても変わる。だからできるだけ人によって箱の中身が変わらないように言葉を選ぶ必要がある。Bさんは意図を正しく伝えるために「信頼できる人に意見を聞いてみてはどうか。例えばご家族や恋人に。」というように発言しても良かったかもしれない。重要なのは発言の内容そのものよりもその意図だということ。コミュニケーションがうまく成立していない場合、意図が伝わっていないことが原因の一つとしてあるだろう。

*1:亡念のザムド 紅皮伊舟

クレオパトラはピラミッドよりも私たちに近かったらしいけどところで文通っていいよね

一度はエジプトに行ってみたくないですか。私は多分リピはないけど一度は行ってみたいなぁと思っている。まだ行ってもないのに。そんなこと考えながらダラダラとインターネットを眺めていたらある記事を見つけた。

エジプト観光・考古省は7月20日、国民や観光客による公共の場での写真撮影を許可すると発表した。エジプトではこれまで、観光地ですら写真撮影が禁止されていた。 同省は声明で「個人使用目的の写真撮影に関する新たな規制を閣議決定した」と発表。「あらゆる種類のカメラを使った撮影が無料で許可される。事前に許可を得る必要はない」と説明した。*1

なるほど、せっかく世界遺産を見にきたのにそれを撮影できないというのは辛かっただろう。許可されてよかった。エジプトの地に降り立ってから持ってきたカメラ一式が全て無駄だったとわかる、みたいな体験した人いるんだろうか。想像しただけで辛すぎる。幸いもう今はピラミッドを前にハイチーズができるようになったということで、若人は iPhone 片手に指ハートとピラミッドのコラボで思い出を収めるのかもしれない。(適当) 私はシナプスが繋がってないないので指ハートをうまく作れない。つりそう。

ところでピラミッドとスマホと聞くと最近驚いた話がある。

古代エジプトで最も有名な女王の一人、クレオパトラと大ピラミッドとの距離よりも、私たちの方が近いのだ。*2

ここでいう距離が近いというのは物理的な距離の話ではなく"時代が近い"という意味だ。私の感覚としてはクレオパトラもピラミッドもナカーマでほぼ同じ時代のものだと思っていた。そうではないらしい。

クレオパトラとピラミッドを隔てた年月よりも、私たちとクレオパトラ(紀元前69年~30年)を隔てた年月の方が短いのだ。クレオパトラが自殺したのは有名な紀元前30年、つまりこの記事を書いている2049年前である。ギザの大ピラミッドが建設されたのは紀元前2580年頃で、クレオパトラが生まれる約2510年前である。つまり、クレオパトラと大ピラミッドとの距離は、クレオパトラの方が461年ほど近い。そして、大ピラミッドは古代エジプト文明が始まった時ではなく、文明が始まってから5世紀以上経った紀元前3150年頃に建造された。

私は前半の約2000年、つまりピラミッドからクレオパトラの間ではテクノロジーはそんなに発展していないような印象を受けた。片や後半の約2000年ではクレオパトラからスマートフォンである。嫌になるスピード感だ。アラサーにもきついよ正直。いわんやそれ以上の世代をや。

急がないでゆっくり この星が回ればいいのに お互いのココロが もっと見えるようにね *3


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ドッコイダー見てないんだけどこの曲最強に好きなんだ。テクノロジーの発展は素晴らしいこともたくさんあったと思うんだけど。既読の文字に一喜一憂するような経験はしたくなかったよ。そりゃ歳くえば少しは感覚鈍くなって気にしなくなるんだけど。私はせめて文通とかが主流の時代に生まれたかった。拝啓 とか 敬具 とかいいよね。全然意味はわかんないけど。現代より言葉ひとつひとつが重かった気がして。この言い回しだと相手にどう受け止められるかなとか、この言葉好きなんだけど伝わるかなとか。そういう迷いもひっくるめてサイコーの体験だったんだろうと想像している。

PROTECT ME FROM WHAT I WANT

私は 2 週に 1 度英語を習っている。実際は習っているというよりおしゃべりしにいっているという感じだけど、授業料をお渡ししてるので習っていると表現しておく。授業は雑多なトピックを英語で話すだけ。授業についてはここでは詳しく話さない。先生であるカリフォルニア出身のじいさんには見習いたいところがあるという話。

彼はお金が大好き。授業後のお支払いを忘れていると「ンン〜、マニマニ〜」とにこやかにリマインドしてくれる。この胆力は見習いたいと思っているしそんなあけすけな彼のことはしょうがない人だと思って笑っている。

彼は週末になると宝くじ売り場に通う。前回買ったいくつかの LOTO7 の当選番号を確認し、そしてまたいくつか買っていく。授業中のトピックも宝くじに関するものが多い。アメリカの宝くじでは目が飛び出るような金額の高額当選が出たんだとか。ちなみに高額当選したら授業料タダにしてねと言ってはある。まだ当選してなさそう。おかげで授業料は発生し続けている。そんな甘くないよね。 でもそんなお金大好きな彼はクネクネしながら「オーゥ、ランボゥ〜」と言ってランボルギーニ大好きなセレブリティを揶揄したりする。

彼は旅行と美味しいご飯を食べることが好きだ。 インドネシア離島の美しい海と美味しい料理の話。どっかの手付かずのジャングルとそこを抜けた天然のプライベートビーチの話。クロアチアの街で恋に落ちた女性に見送られ駅を去る話。どっかのジャングルの奥地でヘビを食べた話。タイの川沿いでゾウの背中に乗ってめっちゃ揺られた話。私の目から見て、彼は人生を楽しむのがとても上手に見えた。

マーケティング、お金、モデルは、価値のヒエラルキーを明確にしていない人の欲望をゆがめる。*1

彼はちゃんと価値のヒエラルキーを持っているようだ。よくある消費を促すためにつくられた価値には興味がないように見えた。お金が大好きなのに、その使い道はとってもはっきりしている。自分の欲望をよく知っている。

ジラールの(欲望の)模倣理論では、(中略) 人々は単なる情報の運び手ではなく、欲望のきわめて重要なモデルなのである。私たちはモデル化されるものよりも、モデル化する人のほうを気にする。真似る目的は、真似そのものではなく、自分の差別化にある。ほかの人と比較してアイデンティティをつくろうとしているのだ。*2

街に出るとたくさんの広告が目に入る。煌びやかなバッグを下げた長身の美しい人。肉汁がすんごくてちゃんと高さがあるハンバーガーをほおばるマッチョ。広告を作った人たちは「欲望の模倣」をよく理解している。広告を見る自分はどうだろうか。お金を使ってしまうだけならまだ良い。本当に大切だった欲望まで見失ってしまうのでは元も子もない気がしている。

「PROTECT ME FROM WHAT I WANT」

これはアメリカ人アーティストのジェニー・ホルツァーの言葉らしい。 それでも結局誰かが守ってくれるわけじゃない。自分で欲望を守らなくちゃならない時代なのだ。オーゥ、ランボゥ〜。

*1:ルーク バージス. 欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア (p.178). Kindle 版.

*2: ルーク バージス. 欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア (p.145). Kindle 版.

「部下が指示待ちで使えない」、「上司の考えていることがわからない」は増幅が原因かもしれない

先日、こんなツイートを見かけた。

JTC (Japanese Traditional Company) というスラングは好きじゃないけど、未だ多くの会社で起こっている現象を表していると思う。前職でよく見かける光景だった。 私はこれをみて「あ、この現象って増幅ってやつだ」と思ったのでした。

増幅って何

人は、権力の地位にある人が「起きてほしい」と考えるだろうと思うことに基づいて行動を起こす。例えばある校長が深く考えずに「誰かがプロジェクトの形にしてくれるといいが」と口にすると、3週間後、三日三晩徹夜をした誰かがプロジェクト案を持ってくる。 *1

組織理論家のチャールズ・ハンプデン・ターナー曰く、上記ような現象を「増幅」と呼ぶそうだ。

タイトルでも挙げた「部下が指示待ちで使えない」もしくは「上司の考えていることがわからない」という現象は、まさに増幅だ。具体的には以下のような流れでそれは起こる。

  1. 上司の些細な発言を受けて、部下は希望的観測のもとで仕事をする
  2. 意図を読み違えているため上司は部下をたしなめる
  3. 部下は上司の意図を推測する能力に自信を失い、進んでイニシアチブを取らなくなる
  4. その結果、上司は「部下の誰一人自分で考える能力を持たない」と思い、部下は「上司が自己中心的で独断的で無神経な人間だ」と感じるようになる

増幅のサイクルを断ち切るには

学習する学校 *2 では、この増幅のサイクルを断ち切るためのエクササイズを用意している。 それは以下の問いについて考え、話し合うことだと書いている。

  • 今までにあなたの言葉が増幅した経験があるか
  • あなたは、誰かから自分に期待されていることを「推測する」立場になったことがあるか
  • あなたの組織では誰の声が最も増幅されやすいか それはなぜか
  • 増幅を引き起こす「推測に基づく仕事」を減らすために、どんな方法が役立つか

まとめ

組織には増幅はつきもの。 意図が共有されない指示によって多くの無駄な仕事が生まれている。 指示を伝えるひと、指示を受け取るひと双方が増幅を理解し注意を払えば増幅は減らせる。

*1:学習する学校 p181 第2章 5つのディシプリン から引用

*2:https://www.hiraoki.com/book/9784862761408