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箱とそのラベルについて

言葉がいるなら私の心ごとくれてやる *1

亡念のザムドは名言に溢れている。このセリフを投げたのは紅皮伊舟。「紅で反旗を書く女」。気が強くて行動力とカリスマ性を持ち合わせているのに不器用で繊細な女船長。武器を持ってヒトガタを黙らせる姿が美しい。彼女は言葉を深く理解しているが、それゆえの諦めのようなものがこのセリフから伝わってくる。

現代におけるこの言葉の「あや」の具体例を考えてみる。 Aさんが会社における人間関係に悩んでいてAさんの友人であるBさんが相談に乗っている。 Aさんは上司からの指示に不満があり、これが自分の問題なのかそれとも上司に問題があるのか判断できずにいる。そこでBさんは「家族に相談してみてはどうか」と発言したとしよう。Bさんにとってこれは「信頼できる人の意見を聞くこと」を勧める意図の発言だ。ここでAさんは何らかの理由で自分の親兄弟に対して良い印象を持っていない場合、Bさんの意図は正確に伝わらないだろう。

あくまで会話でやり取りされるのは言葉であり、その言葉とは箱についたラベルのようなもの。本当は箱ごと渡したいのに実際はラベルだけを相手に渡している。相手は受け取ったラベルから自分の持つ箱の中から探して開封する。同じ言葉を交わしていれば箱の中身も同じだと思いがちだが、大抵の場合そうはならない。普段意識しないがこのようなことが会話の中で起こっている。

厄介なことに箱に何が詰まってるかは人によって違う。そして文脈によっても変わる。だからできるだけ人によって箱の中身が変わらないように言葉を選ぶ必要がある。Bさんは意図を正しく伝えるために「信頼できる人に意見を聞いてみてはどうか。例えばご家族や恋人に。」というように発言しても良かったかもしれない。重要なのは発言の内容そのものよりもその意図だということ。コミュニケーションがうまく成立していない場合、意図が伝わっていないことが原因の一つとしてあるだろう。

*1:亡念のザムド 紅皮伊舟